「きっと君はこない ひとりきりのクリスマスイブ」

                 JR東海のCM+山下達郎「クリスマスイブ」

 

JR東海が1980年代から90年代にかけて流していたテレビCM。

私はこのCMが大好きだった。

当時、私は社会人6年目。

若くはあるがもはや学生ではない。しかし、未婚で子供もおらず、もう一人前の大人だ、

と胸を張れるわけでもない。中途半端な感じだった。

付き合っている彼女はいたが、結婚を約束した訳でもなく。

まだ何も決まっちゃいなかった。

 

でも

 

不安はなかった。未来は輝いている。そう思っていた。

根拠なんて無いのに、そう思わせる何かがあった。

町も駅も華やかで、世の中みんなが浮かれていた。

 

時代はバブル景気。ジャパンアズナンバーワン。円は世界の通貨になり

「世界まるごとハウマッチ」なんて番組まで登場した。

派遣社員もホームレスもいない。

さほど努力しなくとも、普通に生きていればそれなりにお金持ちになれる。

なんとなく誰もがそう思ってたし、事実そうなった。

 

このCM動画には、そんな時代の空気が充満している。

駅にいる誰もが顔を上げてまっすぐ前を向いて歩いている。新幹線もさっそうと走っている。

携帯なんてなかった時代だ。

おそらく前の晩、彼氏から自宅に電話があったのだろう。

「明日、○時○分の新幹線で行くから、迎えに来てよw」って。

なのに、クリスマスのプレゼント買ってたら列車の時間ギリギリになった。

ホームで待ってるつもりだったのに。すれ違いになったらどうしよう。

小走りに駅のホームを目指す。

ねえ、どこ?どこにいるの?

不安そうにあたりを見回す彼女。

 

遠くの改札に向かってくる彼を見つける。

ああ居た居た、良かった♥

 

その時の安心した顔。不安を打ち消した喜びの表情がたまらない。

びっくりさせちゃおう。思わず柱の陰に隠れて彼をまつ。

彼はどんな顔するかしら。

目を閉じて、彼を待つ彼女の表情もいじらしい。

 

あのワクワク感こそ、当時の私が感じていたものだ。

根拠なんて何にもなかったのに、未来は明るくて輝いてると思っていたのだ。

 

翻って今。若い人は未来をどう思ってるのだろう。

派遣社員が労働者の大半を占める時代。労働組合運動もなく無権利状態の奴隷労働に

甘んじ、それでも仕事があるだけで幸せ。

社会保障も年金も当てにならない。好きな子はいるけど、こんな暮らしじゃ結婚できない。

人並みに子どもだって欲しいけど育てる自信はない。

どう考えたってこの先良いことがあるとは思えない。

そんな未来になってやしないか?

 

今の若い人達にあの笑顔を届けたい。あの彼女みたいに笑ってほしい。

なんの不安もなく、これから先、きっと良いことがある。

輝いているから未来って言うんだよ。そう微笑んで欲しい。

 

今回、山下達郎氏の「クリスマスイブ」上手く歌えたのでJR東海のCMで動画を作ってみました。

でも作りながら、あれこれ考えてしまいました。

総天然色で輝いていた動画は白黒ダメージ処理を施しました。

私の歌もモノーラルなラジオ音質に処理しました。

 

「きっと君はこない 一人きりのクリスマスイブ」

 

という達郎の歌詞は、皮肉にも当時輝いていたはずの未来(現代)を暗示していたのかも しれません。