大滝詠一「恋するカレン」と映画「グローングアップ」

 

 大学四年の夏。大滝詠一のアルバム「ア ロング バケーション」をよく聞いた。

卒論の為、それまで上洛したことのなかった真夏の京都に上がり二週間をすごしたのだが、

蒸し暑い下宿の部屋でずっと聞いていた。

 ゴージャスだけど、それでいて繊細な音、すぐそこまで来ていたバブル景気を予感させる

歌詞。すべてが完璧なアルバム あれから四十年たった今でも色あせる事のない名盤中の名

盤だ。

 

 そのアルバムの中に「恋するカレン」という曲がある。

彼女に振られた男の心情を謳う切ない曲だ。

私はあの曲をはじめて聴いた時「これはあの映画を見て書いたんだ」と思った。

その映画とは「グローイングアップ」

 

 1979年公開のイスラエル映画。映画はベンジーとデブとナンパ野郎の3人が主人公。

うぶで純粋な少年ベンジーは同じ学校の女の子ニキを好きになる。故障した自転車を

直した事がきっかけでベンジーはニキと仲良くなる。

 ところが、ニキはナンパ野郎の彼女だと知る。ベンジーは優しくて思いやりがあって

いい人なのだが、まだ子供。ナンパ野郎は自分勝手で傲慢なドSだが、女性経験もあって

セクシー。奥手だが誠実なベンジーに惹かれる一方で、セクシーで強引なナンパ野郎の

魅力には勝てず、ニキはナンパ野郎とセックスをし妊娠してしまう。

妊娠したニキをベンジーは気遣うが、ナンパ野郎は「まじで俺の子なのか?」かなんか

言ってつれない態度。ベンジーは失意のどん底にいるニキを励まし、中絶の手術に付き

そう。ニキはそんなベンジーに心から感謝し涙を流す。

 やっと自分の思いが伝わったと舞い上がるベンジー。氷売りのバイトで小金を稼ぎ、

その金でニキにペンダントを買う。

 ペンダントを握りしめて、友人のホームパーティーに向かったベンジーは、キッチン

で抱き合うニキとナンパ野郎を目撃して打ちのめされる。

 ミスターロンリーが流れる中、打ちひしがれたベンジーは1人泣きながら町を彷徨う。

 

 

 あの当時、私は大滝詠一氏に激しく同意した。

あのナンパ野郎の糞が。ナンパ野郎もとんでもねえが、ニキって娘も娘だ、あんだけ自分

勝手な馬鹿野郎のどこが良いんだ?あんた、人として終わってるだろ。大滝詠一氏の仰る

おり「振られたボクより悲しい女」だぜまったくってね。

 その一方で、振られたベンジーに自分を同化した。自分も女の子には全然もてなかった

からだ。ベンジー、おまえはホント良い奴だ、俺と友達にならねえか?いつか必ずおまえ

の事をわかってくれる素敵な女性が現れる、間違いない元気だせよ。

 そう語りかけたりしていた。

 

 

 その思いはずっと後まで続いた。

でも、いつからか、「そうさ、悲しい女だね君は」という歌詞に違和感を感じるようにな

った。そんなふうに切り捨てちゃニキって子が可愛そうなんじゃねえか?って思うように

なったのだ。

 幼い少女と大人の女が同居してるような年頃のニキの揺れる気持ちを、うぶなベンジー

わかってやれなかった。それだけの事なのだ。人を好きになるってのは理屈じゃどうしよ

うもないところがある。どんなに冷たくされたって好きなものは好きなんだ。

わかるかい?ベンジー、おまえは「良い奴」だが、年頃の女の子にとって「良い奴」っての

は(どうでも)「良い奴」でもあるんだぜ。

 と言って慰めてやりたくなった。

 だから、この曲は良い曲だし大好きなんだが、、、、最後の歌詞に引っかかって歌わずに来た。

 

 

 

しかし今、還暦をすぎて高齢者の仲間入りをした私があの映画も見返してみた。

驚いた。

「そうさ、悲しい女だね君は」と思った。

そう切り捨てても良いと思った。今ならこうベンジーを慰めてやろうと思う。

 

 

 あれで良かったんだぜベンジー。ニキって子はどうしようもない子だ。あれはひどい。

ベンジーの愛情をわかってて、あれはない。ひどすぎる。最低だ。

 台所でベンジーに見つかった時のニキの表情を見ただろ?

ニキは自分でもわかってるんだよ。

「あーあたしって、ほんと駄目な女よね、サイテーだわ」

ってね。

 いいか、ベンジー。あの子はベンジーが求めてるような子じゃない。おまえには

もったいない。セクシーさで理性が溶けちゃうようなどこにでもいる普通の子なんだ。

どうしてもあの子じゃないと駄目だっていうのなら方法はないわけじゃない。だけど、

そこまでする価値はないよ。

 いいかベンジー、おまえの事をわかって、心から愛してくれる子

が絶対に現れる。俺が保証するよ。元気出せよ、ベンジー。

 

※てな訳で『恋するカレン』を歌ってみました

 

※ちなみに、かつての名テレビドラマ『北の国から』に「北の国から87初恋」てのがある。

 あれは有名な映画やドラマのエキスを寄せ集めた寄せ木細工みたいなシナリオなのだが

 (「潮騒」「小さな恋のメロディー」)今回見返してみて、「グローイングアップ」も

 その対象だったんだとわかった。ペンチこと純が大里れいに出会うシーン。はずれた自転

 車のチェーンを偶然をよそおって通りがかった純が直してやるところ。純はいつも男友達

 二人とじゃれ合ってるところ(ただし北の国からでは、グローイングアップのナンパ野郎

 のポジションに純がいて、れいちゃんに片思いをしてた遊び友達の方がミスターロンリー

 だったが)